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広島地方裁判所 昭和50年(行ウ)13号 判決

広島市安佐北区可部町大字上町屋字地取場九〇五番地

原告

南原観光有限会社

右代表者代表取締役

吉川恭男

右訴訟代理人弁護士

新井照雄

広島市安佐北区可部町大字四日市九四六番地の二

被告

可部税務署長

山田達雄

右指定代理人

一志泰滋

吉川定登

杉田泰啓

安永功

高田資生

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1  被告が原告に対し、原告の昭和四六年一一月一日から昭和四七年一〇月三一日までの事業年度の所得につき、昭和四九年三月三〇日付でなした法人税決定処分および無申告加算税重加算税の各賦課決定処分を取り消す(ただし、審査請求に対する裁決により一部取り消されたものを除く。)

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1  原告は、飲食業を経営する会社であるが、昭和四六年一一月一日から昭和四七年一〇月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という。)の所得について確定申告をしなかつたところ、被告は、昭和四九年三月三〇日付で、原告の右事業年度の所得金額を二三五六万二〇〇九円とし、これに対する法人税額を九〇〇万六四〇〇円とする法人税決定処分、および無申告加算税額一万〇二〇〇円、重加算税額三一一万六〇〇〇円とする各賦課決定処分をなし、その旨原告に通知した。

2  これに対して、原告は、同年五月三〇日、被告に対し異議申立てをしたところ、被告は、同年八月三〇日付で、法人税決定処分および重加算税賦課決定処分については、その一部を取り消し、所得金額を二一四九万七七六九円としたうえ、法人税額を八一〇万二三〇〇円、重加算税額を二七九万九六〇〇円とし、無申告加算税賦課決定処分については異議申立てを棄却する旨の各決定をなし、その旨原告に通知した。

3  しかし、さらに、原告は、同年九月三〇日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和五〇年三月三一日付で、法人税決定処分および重加算税賦課決定処分の一部を取り消し、所得金額を七四〇万六三三九円としたうえ、法人税額を二四五万九二〇〇円、重加算税額を五九万一五〇〇円とし、また、重加算税の減額に伴い無申告加算税額を七万六八〇〇円とする裁決をなし、その旨原告に通知した。

4  しかしながら、本件事業年度において、原告には所得がなかつたのであるから、被告のなした本件各決定処分(ただし、審査請求に対する裁決により一部取消後のもの。以下同じ。)は違法であり、その取消しを求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の各事実は認めるが、同4の事実は否認する。

三、被告の主張

1  原告の本件事業年度における所得金額は次に述べるように八一四万六九六三円である(明細は別表(一)のとおりである。)から、右金額の範囲内でなされた本件法人税決定処分に違法な点はない。

なお、原告が中国電力株式会社(以下中国電力という。)に売り渡した別紙物件目録(一)記載の土地(別表(二)Aの山林以下本件土地という。)の譲渡収益を二六二三万六四〇〇円(別表(一)の一、3)、右土地の原価を二〇三九万四七六〇円(同表のの二、2)、損金算入寄付金を一〇万六九二四円(同表四)とした理由は以下のとおりである。

(一) 本件土地の譲渡収益について

(1) 中国電力は、南原発電所の準備工事を行うにつき、原告、吉川恭勇、吉川紀子および河律国男(以下原告らという。)がそれぞれ所有する別紙物件目録(一)ないし(五)各記載の土地建物((一)につき原告、(二)につき河津国男、(三)、(四)につき吉川紀子、(五)につき吉川恭男がそれぞれ所有。以下これらを総称して本件各物件という。)ならびに佐々木卓治外一四名(以下佐々木らという。)が共有する広島市可部町大字上町屋字地取場九〇一番一外三筆の山林合計三七四二平方メートルおよび同所九〇五番地所在の木造亜鉛メツキ鋼板茸二階建店舗一棟床面積三五〇・七三平方メートル、同附属建物(ボイラー室)を買い受ける必要が生じたので、原告らおよび佐々木らとの間で右買受けの交渉を行つた。その結果、中国電力は原告らおよび佐々木らとの間で、右各物件を物件ごとの譲渡価額を決めないで一括して八〇〇〇万円で買い受けることを合意した。そこで、原告らおよび佐々木らは、右八〇〇〇万円を分配して、原告らグループにおいて三〇〇〇万円を、佐々木らグループにおいて五〇〇〇万円をそれぞれ取得することとし、原告らは、右の三〇〇〇万円を別表(二)の〈1〉欄記載のとおり配分した。

(2) しかしながら、本件各物件のうち本件土地を除く別紙物件目録(二)ないし(五)記載の各建物の適正譲渡価額の合計は、次のように三一九万円を上回らないものである。

まず、各建物の取得価額は次の(イ)ないし(ハ)のとおりである。

(イ) 別紙物件目録(二)記載の建物(別表(二)のC建物。以下C建物という。)一六九万円

右建物は、ブレツクホーム株式会社が昭和四六年七月一〇日河津国男から一六九万円で請け負い建築したものである。

(ロ) 同目録記載(三)および(四)記載の各建物(別表(二)のD建物という。)一四五万円

右建物のうち浴室用家屋内のサウナ設備は、昭和四六年六月頃入交商事が七五万円で請け負い施行した。

その部分は片島義信が請け負い、同年六月頃から八月頃まで工事に従事し、工事代金として一九〇万円を受領している。しかし、右工事代金のうちには原告の店舗である南原峡オートインの工事代金一二〇万円(内訳、外部照明工事四〇万五〇〇〇円、渡り廓下工事五〇万円、在来建物工事二九万五〇〇〇円)が含まれているから、一九〇万円からこれを差し引くと七〇万円になる。

(ハ) 同目録(五)記載の建物(別表(二)のEの建物。以下E建物という。)五万円

E建物は「コマツ組立ハウス」であつて、吉川恭男が昭和四六年六月一日八木国男から五万円で購入したものである。

CないしEの各建物の取得価額は以上のとおりであるが、河津国男らがそれぞれこれらを取得した日とこれらを本件土地と共に一括譲渡した昭和四七年三月六日とは近時点にあるところ、CないしEの各建物につき取得価額と譲渡時の時価とを比較検討すると、別表(三)のとおりいずれもその開差はごく僅少であり、かつ建物等は年数を経ることによつて価値が減少することはあつても増価することはないのであるから、適正譲渡価額は取得価額を上回らない価額と認定し、これを三一九万円と認定した(明細は別表(二)の〈2〉欄記載のとおりである。)しかも、右の三一九万円は、各建物がそれ自体独立した価値のあるものとしての通常の取引におけるものであるのに対し、本件においては、本来本件土地の譲渡が目的とされたのであつて、CないしEの各建物の譲渡は本件土地に附随してなされたものであるから、右価額は本件におけるCないしEの各建物の譲渡価額の最大限であるといえる。

(3) したがつて、少なくとも原告は、本件土地の譲渡収益として、本件各物件の一括譲渡代金二九四二万六四〇〇円(三〇〇〇万円から別表(二)のBの営業補償金五七万三六〇〇円を控除したもの。)から右三一九万円を差し引いた残額二六二三万六四〇〇円の配分を受けるべきものである。

(4) そこで、もし本件各物件譲渡代金について原告主張の各人の配分額を容認した場合は、原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となること、および原告が同族会社であるところから右のような不当な配分額を決めることができたのであるから、法人税法一三二条(同族会社の行為又は計算の否認)を適用して、前記のとおり二六二三万六四〇〇円を本件土地の譲渡による原告の収益と認定したのである。

(二) 本件土地の原価について

本件土地の譲渡原価は次の(1)と(2)の合計額二〇三九万四七六〇円である。

(1) 本件土地購入費 一一六四万円

原告は本件土地を鷹取恒昭に対する債権の代物弁済として取得したもので、本件土地購入費は、すなわち右債権総額一一六四万円(鷹取恒昭に対する不渡手形債権分一〇四九万円と同人の債務の原告による代払分一一五万円の合計額)である。

ところで、原告は右債権のうち原告の代払分を四四五万円と主張するが、右金額には、不渡手形債権分に計上済みの側溝工事費三〇〇万円が二重に計上されているし、また、原告が本件土地と共に鷹取恒昭から取得したボイラーの価額三〇万円も含まれているから、これらを差し引くと原告の代払分の金額は被告主張の一一五万円になる。

(2) その他本件土地造成費等 八七五万四七六〇円

原告は右のその他本件土地造成費等を八八〇万四七六〇円と主張したが、右金額には、E建物の取得原価五万円が含まれているから、これを差し引くと被告主張の金額になる。

(三) 損金算入寄付金について

(1) 前記のとおり、本件譲渡価額は、営業補償金を含め総額三〇〇〇万円と決められたものであつて、その配分は当然時価に応じて配分さるべき性格のものであるから、原告が本件土地の譲渡代金として経理すべき金額二六二三万六四〇〇円とこれを実際に経理した金額一八〇三万一四〇〇円との差額八二〇万五〇〇〇円のうち

(イ) 河津国男に対し同人所有のC建物の適正譲渡価額一六九万円を超えて配分した金額六二四万五〇〇〇円(別表(二)参照)は、原告の同人に対する贈与として法人税法三七条五項所定の寄付金に該当し、右金額のうち損金の額に算入できる限度額は、次の各金額の合計額二一万三八四七円の二分の一にあたる一〇万六九二四円である(法人税法施行令七三条一項一号)。

寄付金支出前の所得金額八二五万三八八七円(別表(一)の一の営業収益から二の営業原価と三の一般管理費および営業外費用を差し引いたもの。)の一〇〇分の二・五 二〇万六三四七円

資本金三〇〇万円の一〇〇〇分の二・五 七五〇〇円

(ロ) 原告の役員である吉川紀子および吉川恭男に対しそれぞれの適正譲渡価額を超えて配分した金額一九三万円および三万円(別表(二)参照)は、原告の両名に対する経済的利益供与であり、法人税法三五条四項所定の役員賞与に該当し、損金には算入されないこととなる。

(2) 仮に、原告が河津国男、吉川紀子および吉川恭男に対し超過配分額を供与したことがそれぞれ右各法条に直接該当しないとしても、原告に法人税法一三二条(同族会社の行為又は計算の否認)を適用すべきこと前記のとおりであるから、同法により適正譲渡価額を超える部分は前記(1)のとおり贈与(寄付金)ないし役員賞与と認定されることになる。

2  原告に対する各加算税額は、別表(四)のとおり無申告加算税額一〇万一八〇〇円、重加算税額五九万九二〇〇円であるから、右金額の範囲内でなされた本件各賦課決定処分に違法な点はない。

(一) なお、原告が本件法人税課税の計算の基礎となるべき事実の全部または一部を隠ぺい、または仮装したことにより、本件重加算税賦課決定処分において重加算税の対象とされた金額は、次の(1)ないし(4)の合計額四六六万〇一五〇円である。

(1) 本件土地の架空原価部分(側溝工事費名義のもの)三〇〇万円

原告は、鷹取恒昭の負担すべき側溝工事費の原告による代払分三〇〇万円が右鷹取に対する前記不渡手形債権分一〇四九万円に含まれていたにもかかわらず、国税不服審判所長に対し、右の不渡手形債権分の外に側溝工事費の代払分三〇〇万円が存在することを根拠付けるため、側溝工事の建設工事請負契約書 右鷹取振出の不渡手形明細表および偽造した同人発行名義の領収書を提出して、真実の所得を秘匿し、これが課税の対象となることを回避する意図の下に確定申告を行わなかつた。

(2) 木下栄市に譲渡した土地の架空原価部分(建物解体整地費名義のもの) 四万円

(3) 架空交際費(ミカド名義分七一万三五五〇円、広島国際プラザ名義分六六〇〇円)

七二万〇一五〇円

(4) 架空雑損失(キヤンピングカー二台盗難名義のもの)

九〇万円

(二) 仮に、右の(一)の主張が認められないとしても、重加算税の対象となるものとして架空弁護士費用(新井照雄名義のもの)七五万円が存する。

四、被告の主張に対する認否および反論

1  被告の主張1のうち、別表(一)の一営業収益のうちの3本件土地譲渡収益を除くその余の収益、同二営業原価のうちの本件土地の原価を除くその余の原価、および同三一般管理費および営業外費用の各金額並びに原告が同族会社であることはいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

中国電力に対する本件土地の譲渡収益は一八〇三万一四〇〇円であり、右土地の原価は二三七四万四七六〇円である。

また、三〇〇〇万円は一括して支払われたものではなく、原告ら各人に対し各々の損失に対するものとして支払われたもである。

2  同2のうち、(一)の(2)ないし(4)および(二)の各事実はいずれも認めるが、その余の事実は否認する。

第三、証拠

一、原告は、甲第一ないし第一六号証を提出し、証人茶幡洋、同吉川紀子の各証言及び原告代表者本人尋問の結果を援用し、「乙第一四号証の成立は知らないが、その余の乙号各証の成立はいずれも認める。」と述べた。

二、被告は、乙第一ないし第五号証、第六号証の一、二、第七号証、第八号証の一ないし三、第九号証の一、二、第一〇号証、第一一号証の一ないし四、第一二号証の一、二、第一三、第一四号証、第一五号証の一、二、第一六、第一七号証を提出し、証人広光喜久蔵、同亀井明の各証言を援用し、「甲号各証の成立はすべて認める。」と述べた。

理由

一、請求原因1ないし3の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、まず、原告の本件事業年度における所得金額について検討することとする。

1  営業収益について

(一)  飲食業の売上が二九万〇〇二〇円、営業補償収益金が五七万三六〇〇円、木下栄市に対する土地譲渡収益が一五三〇万二〇〇〇円、雑収入が五〇万円、植木、庭石の譲渡収益が二〇万円であることは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  中国電力に対する本件土地の譲渡収益について

(1) いずれも成立に争いのない甲第五ないし第一六号証、乙第九号証の一、証人広光喜久蔵の証言により真正に成立したものと認められる乙第一四号証、証人広光喜久蔵同茶幡洋の各証言を総合すると、原告らは、佐々木らとの間に生じた本件土地を含む付近一帯の土地に関する紛争を解決するため、同人らとの間で、右土地を中国電力に売り渡しその売買代金を右両グループで分配することに決めたうえ、中国電力と交渉した結果、中国電力は南原発電所準備工事のため右土地を八〇〇〇万円で買い受けることを承諾したこと、そこで、右両グループは、協議の結果、原告らが三〇〇〇万円、佐々木らが五〇〇〇万円をそれぞれ取得することを合意したが、その際、中国電力との各グループ別の売買契約成立を条件に右紛争を一切解決することにしたこと、昭和四七年三月六日原告らは中国電力との間で、本件各物件を三〇〇〇万円(原告および河津国男に対する各営業補償を含む。)で売り渡す旨の売買契約を締結したこと、中国電力は原告らに対する支払額を三〇〇〇万円と決定するについて何ら関与せず、また関心もなかつたのであるが、原告らおよび佐々木らとの間に各別の売買契約を締結しなければ事業用地を確保できないところから、原告らとの間で売買契約を締結したものの、契約締結の段階では各物件の価格および営業補償の額は別に定めなかつたこと、そして、中国電力は吉川恭男に対し三〇〇〇万円を一括して支払い、これを原告らにおいて別表(二)〈1〉欄記載のとおり配分したこと、右売買終了後、中国電力は、右吉川からの申出でにより、同年五月三一日頃、同人に対し、右分配額を記載した原告ら各人別の収用証明書を発行したが、元来、中国電力は分配の内訳には何らの関心もなく、したがつて、右証明書の分配額は吉川の申出金額をそのまま記載したものであること、以上の各事実が認められ、証人吉川紀子の証言および原告代表者本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしてたやすく措信できず、ほかに右認定を覆すに足りる証拠はない。

(2) 次に、原告が本件土地の譲渡代金として配分を受けた一八〇三万一四〇〇円が適正な価格であるか否かについて検討する。

前掲甲第一〇号証、いずれも成立に争いのない甲第三号証、乙第三ないし第五号証、同第六号証の一、二、証人広光喜久蔵、同吉川紀子の各証言および原告代表者本人尋問の結果(ただし、後記措信しない部分を除く。)を総合すると、本件各物件のうち C建物は河津国男が昭和四六年七月一〇日頃一六九万円で取得し、D建物は吉川紀子が同年六月頃から八月頃にかけて一四五万円で取得し、E建物は吉川恭男が昭和四六年六月一日頃五万円で取得したこと、河津国男は、本件各物件において飲食業を営んでいた南原峡オートインの代表者の名目で、C建物の譲渡により営業補償金等五五三万五〇〇〇円を含めて七九三万五〇〇〇円の配分を受けているが、右南原峡オートインは実質上河津国男の営業にかかるものではなく、原告の経営するものであつたから、河津国男としては右のような営業補償を受けるいわれはないこと、がそれぞれ認められ、原告代表者本人尋問の結果のうち右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしたやすく措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

そして、建物は一般に建築後年月の経過とともに次第にその価値を減ずるものであること、また、吉川らがCないしEの各建物を中国電力に譲渡したのは右各建物を取得後未だ一年を経過しない時であつて、その間の物価変動が特に顕著ともいえないことを考えると、原告らが中国電力に対し本件各物件を譲渡した昭和四七年三月六日当時のCないしEの各建物の時価(すなわち適正譲渡価額)は、右各取得価額を上回らないものということができる。

してみると、中国電力から原告らに対し支払われた三〇〇〇万円が本件各物件の時価および相当な営業補償金の合計額を大幅に上回つて支払われたものと認めるべき事情も窺われない本件においては、右三〇〇〇万円のうち原告に対する営業補償金五七万三六〇〇円を除いた二九四二万六四〇〇円から前記CないしEの各建物の適正譲渡価額の合計三一九万円を控除した二六二三万六四〇〇円が本件土地の適正譲渡価額であると認めるのが相当である。

(もつとも、仮に河津国男に対し配分された前記南原峡オートインの営業補償金五五三万五〇〇〇円の全部又は一部が実態に基づくものであり、これを営業主体たる原告において配分を受けるべきものであるとすれば、本件土地の適正譲渡価額は計算上右配分額の分だけ減少するはずであるが、反面において、その分原告の営業補償収益も増加することになるから、右事情は原告の営業収益の総額の認定に何らの消長も来さないものといわなければならない。)

(3) 右事実によれば、原告が本件土地の譲渡代金として配分を受けた一八〇三万一四〇〇円はその適正譲渡価額を大幅に下回るものであり、右配分額を容認した場合には原告の法人税の負担を不当に減少させる結果となることはいうまでもなく、かつ、原告が同族会社であることは当事者間に争いがないから、被告が法人税法一三二条を適用して右配分額を否認し、本件土地の適正譲渡価額に従いその譲渡収益を算定したことは相当であるといわなければならない。

(三)  以上によれば、原告の本件事業年度における営業収益は、(一)の各収益金額(合計一六八六万五六二〇円-この額については当事者間に争いがない。)と(二)で認定した本件土地の適正譲渡価額(二六二三万六四〇〇円)とを合計した四三一〇万二〇二〇円となる。

2  営業原価について

(一)  飲食業が二三万五九一一円、木下栄市に譲渡した土地の取得費が一一四八万六三〇六円であることは、いずれも当事者に争いがない。

(二)  中国電力に譲渡した本件土地の原価について

(1) 前掲甲第三号証、同乙第九号証の一、いずれも成立に争いのない乙第八号証の一、三、第九号証の二、証人広光喜久蔵の証言を総合すると、原告は本件土地を鷹取恒昭から同人に対する債権の代物弁済として取得したこと、原告は、鷹取に対する右債権の額を不渡手形分一〇四九万円および同人の第三者に対する債務の代払分四四五万円(うち三〇〇万円は本件土地の側溝工事費)と主張していたこと、しかしながら、右側溝工事費の求償債権(実際の金額は二五〇万円である。)については鷹取から原告に約束手形三通が差し入れられていたところ、この手形も不渡になつて右不渡手形分一〇四九万円の中に含まれており、したがつて、右側溝工事費三〇〇万円は不渡手形分と代払分との双方に重複して計上されていたこと、また、原告は昭和四六年六月三〇日鷹取所有のボイラーを三〇万円で競落したが、右競落代金は原告の同人に対する右債権をもつて相殺したこと、さらに、審査請求において、原告は、本件土地の原価を構成する本件土地造成等の費用を八八〇万四七六〇円(うち五万円はE建物の購入費)と主張していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。すると、本件土地を取得するために提供された原告の鷹取に対する債権は、原告主張の債権額の合計一四九四万円から二重に計上されている側溝工事費三〇〇万円及びボイラー代三〇万円を差し引いた残額一一六四万円となるべきである。また、原告主張の土地造成等の費用にはE建物の購入費五万円が含まれており、右費用は本件土地の原価とは無関係であるからこれも控除すべきである。したがつて、本件土地造成等の費用は原告主張の八八〇万四七六〇円から右購入費五万円を差し引いた残額八七五万四七六〇円であるというべきである。

(2) 右説示によると、本件土地の原価は右合計額二〇三九万四七六〇円ということになる。

(三)  以上によれば、被告主張のとおり、原告の本件事業年度における営業原価は、右(一)の合計額一一七二万二二一七円(この額については当事者間に争いがない。)と、(二)で認定した二〇三九万四七六〇円の各原価を合計した三二一一万六九七七円となるべきである。

3  一般管理費および営業外費用が二七三万一一五六円であることは当事者間に争いがない。

4  損金算入寄付金について

前認定事実によれば、本件土地の適正譲渡価額二六二三万六四〇〇円と原告が配分を受けた一八〇三万一四〇〇円との差額八二〇万五〇〇〇円は、前記CないしEの各建物の適正譲渡価額を超えて各所有者に配分された金額に充てられたことになり、右各超過配分額(別表(二)の〈3〉欄参照)は、原告から右CないしEの各建物の所有者に対し無償で交付されたものとみるほかはない。

してみると、河津国男に対する超過配分額六二四万五〇〇〇円は、法人税法三七条二項、五項所定の寄付金に該当し、かつ、成立に争いのない乙第一七号証によれば、原告の資本金は本件事業年度当時三〇〇万円であつたことが認められるから、被告が、右法条および同法施行令七三条一項一号に従い、右寄付金の支出に伴い損金に算入される金額の限度を一〇万六九二四円とした措置に違法はない。

また、前掲乙第一七号証によれば、吉川恭男および吉川紀子は、本件事業年度の当時いずれも原告会社の役員であつたことが認められるから、右両名に対する前記超過配分額(吉川恭男につき五万円、吉川紀子につき一九三万円)は、法人税法三五条四項所定の役員賞与に該当するものというべく、したがつて、被告が同条一項により右各金額につき損金算入額を零としたことも適法といわねばならない。

5  以上によれば、原告の本件事業年度における所得金額は、営業収益四三一〇万二〇二〇円から営業原価三二一一万六九七七円、一般管理費および営業外費用二七三万一一五六円並びに損金算入寄付金一〇万六九二四円をそれぞれ差し引いた八一四万六九六三円となるところ、本件法人税決定処分は右金額の範囲内でなされていること明白であるから、原告主張のような違法な点はない。

三、次に、原告に対する無申告加算税および重加算税について検討する。

1  まず、原告が本件法人税課税の計算の基礎となるべき事実を穏ぺい、または仮装したか否か、これが肯認された場合重加算税の対象とすべき金額はいくらであるかの点について判断するのに、

(一)  木下栄市に譲渡した土地の架空原価部分四万円、架空交際費七二万〇一五〇円、架空雑損失九〇万円について、原告が穏ぺい、または仮装したことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  原告が本件土地を鷹取恒昭から代物弁済として取得するために供した同人に対する債権として不渡手形分一〇四九万円と同人の第三者に対する債務の代払分四四五万円とを主張し、側溝工事費の代払分三〇〇万円につき鷹取から手形を収受し、その分を右不渡手形分一〇四九万円の中に計上する一方、代払分四四五万円の中にも二重に計上していたことは前認定のとおりである。そして、前掲乙第八号証の三、証人広光喜久蔵の証言によると、原告は、鷹取恒昭が振り出した不渡手形の明細書(額面合計一〇四九万円)、偽造した鷹取恒昭名義の一〇四九万円の領収証、側溝工事についての建設工事請負契約書等を用意して、不渡手形分とは別に側溝工事費の代払による債権が存在することを仮装しようとしたことが認められる。してみると、原告は、側溝工事費三〇〇万円につき、所得金額の計算の基礎となるべき事実を仮装したものと認めざるを得ない。

2  そして、右(一)、(二)の各事実によれば、重加算税の対象となる金額は合計四六六万〇一五〇円となり、重加算税額は国税通則法六八条二項により別表(四)のとおり五九万九二〇〇円となり、無申告加算税額は同法六六条一項により同表のとおり一〇万一八〇〇円となることは、同法、法人税法、租税特別措置法の各関係条項より明らかであるから、右金額の範囲内でなされた本件各賦課決定処分に違法な点はない。

四、以上によれば、被告のなした本件各決定処分(ただし、審査請求に対する裁決により一部取り消されたものを除く。)はいずれも適法であり、原告の本訴請求はすべて理由がないことになるから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 植杉豊 裁判官 大谷禎男 裁判官 川久保政徳)

物件目録

(一) 広島市可部町大字上町屋字地取場八六八番地の一八

山林一、七〇三平方米

(二) 同所九〇一番地の一

木造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建居宅

(三) 同所九〇五番地

木造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建共同便所兼倉庫

(四) 同所九〇七番地

木造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建溶室

(五) 同所八六八番地の一八

軽量鉄骨亜鉛メツキ鋼板葺平屋建事務所

別表(一)

〈省略〉

別表(二)

〈省略〉

別表(三)

譲渡資産の取得価額と譲渡時の価額の比較

〈省略〉

(備考) 1 「木造建築費指数」は、財団法人日本不動産研究所発行の「全国木造建築費指数(昭和47年3月末現在)(別表の附表)」によつたものである。

2 「減価償却費の計算」は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40.3.31大蔵省令第15号)によつたものである。

別表(四)

〈省略〉

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